一等地は「借りているだけ」でも価値がある
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日本における賃貸業の基本となる法律は、民法と借地借家法です。
借地借家法は本来、「地主や大家の暴挙をストップするため」という制定趣旨ですから、どうしても「借りている側」に有利なものになっています。
それが悪質な入居者、場合によっては滞納者でさえ追い出せなかったり、建て替えや再開発を妨げているという問題点は、何十年も前から指摘されています。
今日はその顕著で面白い例をご紹介しましょう。
◆ルノワールがあるのって「こんな場所」
首都圏にお住まいの方でしたら、この喫茶店はご存じだと思います。
銀座ルノワール。都内を中心に90店舗を展開するカフェチェーンです。
おしぼりとお水、席でオーダーができる喫茶店スタイルで、座席も広めでゆっくりできることから、ビジネスマンの商談や何かの勧誘まで幅広く利用されています。
会議室が併設されている店舗も多く、ぼくもよく利用します。
このルノワール、1~2店舗くらい「あ、ここにあったな」と思い浮かべてみてください。だいたい、こんな特徴がありますよね。
・駅から近い便利な場所にある
・どちらかというと、何となく雑多なエリアにある
→ 東京駅だったら丸の内じゃなく八重洲、横浜ならみなとみらいじゃなく関内
・築年数の古いビルで営業している
なぜ、ヒカリエやランドマークタワーのような、「開発されたエリアでの新しいビル」に店舗がないのでしょうか。
◆もはや「特別」でもない利益とは
実はこのルノワールは、業界の中では「再開発などによる立ち退き費用で稼ぐ」ことで結構有名だったりします。
そういう戦略なのかは分かりませんが、上記の出店特徴はまさに「これから再開発される」という場所とドンピシャであり、実際に多くの立ち退き費用を受け取っていることがIR資料からも見て取れます。
一番がっつりと受け取っていた時期の損益計算書をご覧下さい。
特別利益の項目の「受取補償金」というのがそれで、平成26年度には2億3千万円、27年度には1億9千万円以上の立ち退き費用を受け取ったことが報告されています。
この金額は、税引き前当期利益の37~45%にもなります。
つまり90店舗(他ブランドもありますのでそれ以上)の本業で稼いだ金額の6~8割くらいを、立ち退き料で別途稼いでいるということで、もはや「特別」な利益でもなくなっているくらい、同社において立ち退き料は大きな収益となっています。
◆立ち退き料の算定根拠
しかし、そのビジネスモデル(?)も、コロナの影響で陰りが出てきているようです。こちらのツイートをご覧下さい。
足りないっ……!ルノアール……圧倒的…受取補償金不足っ……!売上半減の、経常利益マイナス12億に受取補償金(=立退き料)1億ちょっとでは……焼け石に水っ……! pic.twitter.com/6E1Wtpe2RQ
— 全宅ツイのグル (@emoyino) December 10, 2020
フォロワー2万人超えのグルさんが、最新の同社IR資料をアップしてくれました。
コロナ禍で売上が半減(41億→19億)し、12億円という大幅な赤字になってしまったようです。
焼け石に水とはいえ、今年度も1億円以上の立ち退き料を受け取っているのですが、なぜ(補償金ビジネスに)陰りが出ているかというと、こういった補償金の算定はお店の利益額をもとに交渉されるからです。
高額な立ち退き費用は、喫茶店という業態の原価率が低く(10%ちょい)大きな利益を残せるからこそ獲得できるものであり、今のような利益を出せない状態が続くようでは難しいでしょう。
それどころか、赤字が続くと立ち退きを求められなくても、自ら閉店・撤退するしかなくなります。
広い東京、常にどこかのエリアが再開発中ですから、おそらく今も立ち退き交渉中の店舗があるのではないかと思います。
もしかしたら、再開発側は途中で「あ、これは結論を急がない方がいいな」と考え交渉をストップするようなことがあるかもしれませんね。
◆おまけ(似たようなモデル)
ちなみに、同じような立地や建物に出店していることが多い店舗として、立ち食いの「富士そば」が挙げられています。
いかにも建て替えられそうなビルに所在する富士そば(新橋駅前)
立ち食いそば店も、喫茶店同様に利益率が高い業態として知られています。
富士そばは上場企業ではないのでIR資料が公開されておらず、受け取っている立ち退き料がどのくらいかは分かりませんが、一等地というものは、所有するだけじゃなくて借りているだけでも価値があるという訳です。