家賃モラトリアム法案
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コロナの感染拡大によって、一部の業種を除いて多くの人たちが経済的なピンチを迎えています。
他人と会ってはいけない、必要のない時に外出してはいけない、何なら出勤も控えてほしい・・なんてことを要請されている状況で成立するビジネスなど、そうはありません。
その中でも大きなマイナス影響を受けているのが、飲食店などのサービス業です。
ぼくは気に入っているお店を応援する意味でも、割と直近まで毎日外食をしていましたが、最近はそういったお店も自粛による休業に踏み切るところが増え、シャッターと張り紙だらけの繁華街に恐怖を感じる日々です。
さて、そんな折に衝撃的なニュースが流れてきました。
タリーズコーヒージャパンの創業者で、元国会議員の松田公太さんが家賃支払の猶予や減免を認める「モラトリアム法」の策定を求めて、他の飲食経営者と共に都内で記者会見を行った・・というものです。
松田さん、今は「Eggs ‘n Things」というパンケーキチェーンを展開しています(現在24店舗)コロナ騒動の前はパンケーキブームの火付け役となりお店も絶好調でした。
※TOKYO FOOD NEWSより。クリックで全文読めます。
これには驚きました。
家賃をなんとかしてくれという声はたくさん出ていましたが、元議員が先頭に立った業界団体(的な)が訴えるとなると話は違います。
ほかにも、破竹の勢いで店舗を増やした「串カツ田中」の貫啓二社長(田中さんじゃないんかい!笑)など、多くの経営者が記者会見に参加していました。
松田さんは、ツイッターでも意見を述べています。
① 日本で最も(ほぼ)不労で稼ぎ続ける事ができるのが不動産所有者。企業も個人も(よほどの大成功起業家以外は)金持ちは不動産を手中にした者に偏る傾向が顕著。飲食業や小売業等、多くのテナントが瀕死の状態になっても「家賃を払えなかったら他に貸すから出ていってもらって構いませんよ」という姿勢
— 松田公太 (@matsudakouta) 2020年4月2日
外食産業が大変なのは分かるのですが、これはちょっと・・・。
もちろん、ぼくが松田さんの立場であれば、自分でも恥ずかしいくらいのポジショントークを躊躇なくすると思いますが(そういう意味で経営者としては尊敬します)、この法案はいろんな点でスジが通っていません。
1.「分かち合い」の精神がなってないのはテナント側
松田さんは、記者会見でこのようなことを言ってます。
痛みの分かち合い・・・なんて言えば聞こえはいいですが、じゃあ松田さんがパンケーキでがっつり稼いだ収益や、串カツ田中が上場した時に得た莫大なキャピタルゲインを、ちゃんと不動産オーナーと分かち合ったのか?という話です。
「利益は全部オレのもの。損失は大家が一緒に被る」なんて、虫が良すぎると言われても仕方ないでしょう。
2.近代の法制度として不適格
留年スレスレの成績ではありましたが、一応自分も法学部卒です。
なんとなく覚えていることで「近代私法の三大原則」というのがありまして、その中のひとつ「私的自治の原則」に違反するのではないかと思います。
私的自治の原則とは、要するに「当事者間で決めた契約に国家が干渉することは許されませんよ」というものです。それの例外が、よく耳にする「公序良俗」に違反しているものなんですが、賃貸借契約は公序良俗に1ミリも違反していません。
そのほか、家賃の猶予を強制するということは、「一定期間、その不動産を他人に占有させる」とも取れるので、そうなると国家による財産権の侵害ということにもなります。財産権は憲法で保障されている基本的人権ですから、とんでもないことです。
3.フェアじゃない。
この法制度で保護される対象は、賃料を支払っている飲食店などのテナントだけです。他にも困っている人はたくさんいますし、不動産の保有リスク(価格が下がったり自然災害などで損壊したり、めちゃくちゃリスクある)と多額の借金を受け容れて自社保有の建物でお店をやっている人もいる訳です。
この法律が許されてしまうなら、
お腹が空いて死にそうな人が「タダで食べさせてください」と頼んで来たら、飲食店は必ず交渉に応じなければならない。
ということになります。
お店はきっと、その人をお店から叩き出すか、「生活保護を申請しろ」とか「親戚とかに助けてもらえ」って言いますよね。だから、今困っているお店もそうしたらいいんです。
ということで、この法律が現実のものになる可能性は高くないとは思いますが、何が起こるか分からないのが今の世の中です。
オーナー側もしっかり対策して、不条理なルールに負けないようにしましょう。