テックの話のつづき(逆をやって成功したビジネスも)
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不動産テックという言葉は「不動産+テクノロジー」という2つの単語の掛け合わせによる造語です。
賃貸や売却のポータルサイトをはじめとして、不動産業界にも進んだテクノロジーを取り入れて上手く行っている事業はたくさんあるのですが、前回からの記事ではこの不動産テックをもう少し狭い意味で使っています。
◆いわゆる「不動産テック」が次々と失敗する理由
・市場や取引の透明性が大して望まれていない
・良い不動産は売るも貸すも今のままで困らない
・業界の商慣習をバカにしている
・事業モデルが性善説に基づき過ぎ
・お金がない側の味方をしている真逆の取組で一気に浸透したサービスもあります。
— 投資家けーちゃん (@toushikakeichan) October 8, 2020
なんというか、こう「不動産業界はダメだ、遅れている」「俺たちのサービスで業界を変えてやる」的な上から目線で参入してくるような会社のことを言ってます。
SUUMOや健美家は、業界を否定しながら新規事業を立ち上げたりしてませんしね。こういうところはちゃんと残っているのです。
◆「いい人」が作ったサービス
では後半の解説をします。4番目の「性善説」について。
こういうテック的なサービスを思いつくような人たちは、教育レベルも高くてきちんとした社会生活を送り、ご自身で借りている住まいも適正に使っていらっしゃるのでしょう。
そういうまともな人で、さらに不動産業界の中で揉まれたことがないと、世の中には色んな人がいることに気付かないのかもしれません。
家賃を払わない人、契約やルールを守らない人はたくさんいます。
犯罪に手を染めて逮捕されたり、身寄りが一人もいなかったり、部屋の中で自殺したり、奇声を発したり、ゴミ捨てに行かずに部屋に溜めたり、居住中いちども部屋を掃除しなかったり、家財そのままで失踪したり。
別人を装って売買や賃貸の契約をしたり、他人の不動産を売ろうとしたり、手付金をもらっているのに別の人に不動産を売ったり、空き家に勝手に住んだり。
非効率だと思える慣習も、おかしな人や悪い人をたくさん見てきた不動産業界で自然と培われた防衛策だったりします。
それを全否定して新サービスを打ち出しても、受け容れられないのは当然というものです。自分の物件でセルフ内見なんて採用したら、無料のレンタルルームになってしまいそうで絶対イヤです。
(ちなみに執筆日現在、セルフ内見サイトに登録されている部屋は、神奈川県全体で1553件でした。一方でSUUMOに登録されている同県の部屋は41万件です)
◆手数料がもったいない人のマインド
最後の「お金のない側の味方をしている」ことについて。
例えば、上述のツイートについてコメントをされた方がいらっしゃるので読んでみてほしいのですが、これって家を買ったり借りたりする側のよくある意見だと思います。
でもここで「売主と買主を直接つなぐ!画期的サービスで仲介手数料ゼロを実現」みたいなサービスが開発されたとしても、
売主「えー、そんなの面倒くさいから●●さん(←懇意にしている不動産会社の営業)お願いね。高く売ってくれたら(仲介手数料以外に)お礼はずむよ」
と言われて終わりです。
良い不動産を持っているお金のある売主さんにとっては、仲介手数料など大した負担ではありませんし、業者さんと敵対するのではなく自分の味方につけようとします。
仲介手数料をケチって、それ以上の金額分高く買ったり安く売ってしまうのが、お金のない側の行動パターンです。
不動産の世界は、良い不動産を保有している「お金持ち側」に受け容れられないと、どんなサービスも成功しないと言えるでしょう。
◆テックの逆で成功したサービスとは?
ツイートの最後にある「テックの逆をやって成功したサービス」とは何かというと、いまでは大半の賃貸借契約で利用されている「滞納保証」です。
取引の透明性とは関係なく、大家さんと不動産会社(お金のある側)にとって役に立つサービスであり、基本的には性悪説にもとづいて作られた仕組みです。
ぼくが不動産投資を始めたころは、滞納保証会社を使っている大家さんはほとんどいませんでした。日本セーフティも全保連も、東京で営業をスタートさせてから20年経過していません。
それが今や「保証会社を必須」としているお部屋が大半を占めているんですから、不動産業界を変えることに成功したビジネスですよね。
これからまた、不動産業界がガラッと変化するようなことが起こるとすれば、それはVRとかAIなどではなく、おそらく滞納保証と同じような泥臭いものだと思います。