賃料減額ガイドラインが「大家寄り」すぎる
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昨日は、借地借家法が借主側に有利にできていて、実際の賃貸現場の事情に合わず、経済合理性から見てもイマイチだという話をしました。
基本的に法律というのは「弱きを助け、強きをくじく」という理念で作られています。
だから、道路交通法は歩行者の保護が過剰だと言われていますし、労働基準法が労働者に有利すぎるので、企業が正規雇用をする動きを妨げているという問題があったりします。
不動産業界でいうと、ほかには前にも取りあげた東京ルール(国土交通省のガイドライン)も、「悪意を持った入居者の通常使用」に対応していないという点で、過剰な弱者保護になっていると思います。
しかし、最近その逆で「あれっ?」と思うことがありましたので記事にしてみます。
◆民法改正のひとつ(賃料減額)
2020年の4月に民法が改正されまして、不動産分野でもいくつかの実務的な変更があったのはご存じだと思います。
賃貸の連帯保証人について極度額(責任の限度額)を設定すること、敷金の変換ルールなどが明文化された訳ですが、それ以外に「一部滅失による、賃料減額ルールの明文化」というのがあります。
お堅い表現ですね。民法の条文は下記の通りです。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される(改正民法第661条1項)
簡単に言えば「本来使えるべき設備が使えなかったり、入居者さんの責任じゃない理由で完全な状態で住めなくなった場合は、家賃を減額しなさいよ」ということですね。
民法で決まってなくても、そういう運用をしていた大家さんも結構多いのではないでしょうか。
ぼくも、給湯器が壊れて使えなかったような時に、「銭湯に行くでしょうから」という感じで1万円くらいの家賃を減らしたようなことはあります。
◆管理会社さんの団体が作ったガイドライン
民法というのは基本法のひとつなので、賃貸借だけじゃなくてあらゆる権利関係について規定しているものですから、一つ一つの条文はかなり大ざっぱです。
上記の「賃料減額ルール」についても、何が壊れたときにいくらの家賃を減額しなければならない・・というのは明確になっていません。
そこで、「何が壊れたときにいくら」というガイドラインが、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)というところで作られ、ネットで検索するといろんなサイトに掲載されています。
日管協は、日本最大の賃貸管理会社さんの協会ですね。ちょうど先日、金沢のセミナーにご招致いただきました。立派な団体です。
では、その日管協が作ったガイドラインを見てみましょう。
※日管協のサイトにアップされているガイドライン(全文PDF)
◆大家さんでも引くレベル
管理会社さんですから、大家さん側の立場でいてほしいのはもちろんですが、さすがにこのガイドラインはやりすぎだろう・・と思いました。
例えば、分かりやすいトイレを例にしてみましょう。
トイレが使えないという不具合は、免責1日のあと賃料の減額を20%と定められています。
家族4人で暮らす家賃10万円のマンションで、トイレが1週間使えなかった場合、免責1日を差し引いて6日分の家賃が20%減額されます。
計算すると、10万円×20%×6/30=4千円 です。
トイレが1週間使えなかったことによる賃料減免が4千円。普通の人にとって、トイレが使えない家は、家そのものが使えないことと同じです。
ホテルや大規模マンションのように建物内に別のトイレがあれば別ですが、そうでなければウィークリーマンションのようなところで仮住まいをするしかありません。それなのに、賃料の減免は4千円。
さすがに、入居者さんもキレるのではないでしょうか。
◆トラブル間違いなし
日管協のホームページには、同じ10万円の家賃の部屋で、ガスが止まった際の計算方法が掲載されていました。
※クリックで日管協のページへ
ガスが6日間使えなかった場合、1千円の賃料減額。これ、、大きな事件がない時期であれば、テレビで採り上げられて社会問題になっても仕方ないくらいの暴挙ではないかと思います。
日管協の人は、ホームページの原稿書いてて何も思わなかったのでしょうか。
エアコンが使えない場合の減額は、定額で5千円だそうです。
なぜ定額?2万円の木賃アパートでも、六本木ヒルズでもエアコンが使えなかった場合の「住みづらくなる度合い」は同じ5千円なのでしょうか。
そのほか、ガイドラインの全ての項目で「マジかよ」というレベルで低い水準となっており、これを盾にとって入居者さんに伝えたら、トラブルになるのは確実です。
大家さんのイメージが(これ以上)悪くならないうちに、ガイドラインの見直しをするべきだと思います。