不動産テックが上手くいかない理由
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イノベーション。非常に魅力的な言葉です。
ひとたび世に生を受けたからには、世界を変えるような大きなことを成し遂げたいという気持ち。そういう想いが世の中を進歩させてきたのは紛れもない事実です。
不動産業界は?
皆さんもお気づきのように、不動産業界は非常に「前時代的」だと言われることが多い業界です。
IT化でさえ進みが遅く、いまだにFAXを主要なツールとして活用している会社も多くありますし、TwitterなどのSNSには不動産会社や業界に対する不満で溢れています。
◆不動産イノベーションは失敗の歴史
しかし、これまでも多くの会社が「不動産業界に革命を起こす」と意気込んで様々なサービスを打ち出してきましたが、残念ながらそのほとんどが既に失敗に終わっていたり、びっくりするくらいの低空飛行を続けているのが現実です。
古くは不動産の透明性と中立性をうたった「マザーズオークション」は日の目を見ることなく廃業。オープンしてからずっと、サイトは過疎状態のままでした。
近年では「売主の仲介手数料無料」を打ち出したソニー不動産(上手くいかなくて既に社名変更)、話題にのぼらないセルフ内見サービス、そして既に死に体であるご存じ「OYOLIFE」など。
つい最近では「不動産テック協会」なるものが、不動産に共通IDを付与しようという記事が出ていましたが、絶対に浸透しないと断言しておきましょう。
クリックで元記事(日経オンライン)
◆上手くいかないのは理由がある
こういった「悪習を打ち破る!」と意気込むイノベーション的な取組み、不動産業界においてほとんど上手くいかないのはなぜでしょうか。
理由を考えてみたので、下記のツイートをご覧下さい。
◆いわゆる「不動産テック」が次々と失敗する理由
・市場や取引の透明性が大して望まれていない
・良い不動産は売るも貸すも今のままで困らない
・業界の商慣習をバカにしている
・事業モデルが性善説に基づき過ぎ
・お金がない側の味方をしている真逆の取組で一気に浸透したサービスもあります。
— 投資家けーちゃん (@toushikakeichan) October 8, 2020
先日のブログ記事にもありましたように、不動産における利益の源泉のひとつが「非対称性」にあります。簡単にいうと、取引相手との知識や情報、ノウハウなどの差によって利益を得るのが不動産の醍醐味のひとつな訳です。
ですから、知識やノウハウに乏しい弱者だけは「取引の透明性」を望むかもしれませんが、業者さんはもちろん普通に家を売ったり買ったりする一般人でさえ「お値打ちに買いたい」とか「相場より高く売りたい」と思っています。
「相手方には透明性を望むものの、自分側は不透明でいたい」というダブルスタンダードの中で、これまで不動産業者さんは立ち回っていたのだと思います。
◆テックに飛びつくのはいつも・・・
2番目に挙げた「良い不動産は困っていない」というもの。これもテックが浸透しない大きな理由だと思います。
例えば上述のセルフ内見。
賃貸付けに困っている部屋であれば「入居者受けの良いことはどんどん採用しよう!」となるかもしれませんが、一等地物件のオーナーさんは「知らない人が業者の立ち会いもなしに部屋に入るのはイヤ」で終わりです。
そんなことしなくても今のままでも申込が殺到する訳ですから。
内見のないまま次の入居が決まっているかもしれませんね。
「ちゃんと業者さんを通じて審査も受けて、手数料も諸費用も払う入居者」だけで満室にできる大家さんは、ウチコミもジモティー(これは不動産テックではありませんが)も使う必要はない訳です。
その結果、こういったテックにいち早く乗るのは不人気な物件ばかりになり、「やっぱスーモで探そうっと」ということになるのでしょうね。
◆合理的じゃないのは理由がある
3番目の「商慣習をバカにしている」について、参考になる記事があったのでご覧下さい。
「不動産業界の悪習を破れ」というコラム。クリックで元ページ
こういうのって探せばいくらでも出てくるし、これまでの失敗テック関係者さんも声高に叫んでいたことでもあります。
この件でいえば、不動産の売主さんが「どこの馬の骨かも分からない人に、物件の情報を教えたくない。買う気があって買える人にだけ知ってほしい」と思っている訳で、だからこそこの世界には多くのクローズ情報があるのです。
モノはひとつしかない訳ですから、個人情報をしっかり開示して問い合わせをしてきた優良な見込み客に売れれば十分です。
これは、あの有名なポータル会社も失敗していますね。
投資家さんが匿名のまま問い合わせができる!(だから連合隊や健美家とは違う)という触れ込みでしたが全く浸透せず、途中でポータルサイトに舵を切った経緯があります。
「悪習だ」「時代遅れだ」と言われていても、その慣習が根付いているのには理由があります。そこを飛び越えて否定から入るような会社やサービスが、業界に受けいられれるのは難しいでしょう。
例えば大家さんが支払う広告料だって、厳密に言えば仲介手数料の上乗せですから宅建業法違反です。でも、多くの大家さんが「入居を早く決めるために、広告料程度の支払いは十分合理的だ」と思っているから浸透しているのです。
(話がそれるので深掘りしませんが、不動産の手数料を「販売マージン」と考えると、他業界に比べて激安な水準です)
次回は後編。残りの2つと補足の話をさせていただきます。
ちなみにツイートの最後にある「真逆の取り組みで浸透したサービス」って何だと思いますか?15年前にはほとんどなかったのに、今は大半の取引で使われているサービスです。