入居者の賠償責任(火事はお互い様)
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賠償責任について説明したついでに、入居者さんの賠償責任との関係についてもお話しておきたいと思います。
入居者の方は、大きく分けると「大家さん」と「他の入居者」に対して、不法行為による賠償責任を負う可能性があります。
◆民法の例外規定
不法行為による損害賠償責任は、民法第709条でした。
第709条【不法行為による損害賠償】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法は明治29年に制定された大変古い法律ですが、その3年後の明治32年に制定された法律で、民法第709条の例外規定が設けられています。
【明治三十二年法律第四十号(失火ノ責任ニ関スル法律)】
民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
いきなりカタカナ表記になってびっくりしますが、昔の法律は漢字&カタカナで表記されてました。民法は平成16年になって改正された時に、ひらがな表記に改められただけです。
さて、この「失火の責任に関する法律」は、略して「失火責任法」とも呼ばれますが、条文はこのひとつだけ。
簡単にいうと「失火の場合は、民法709条を適用しない」
「火事を起こしても損害賠償責任は負わない」というウルトラ例外規定が、この失火責任法という訳です。「但シ」以降の後半は、重過失の場合はその限りではない(=賠償責任を負う)と書かれています。
◆なんでこんな法律ができたのか
これは、昔の日本家屋が非常に燃えやすい上にチープな作りになっており、「火事はお互い様」という国民認識があったとか、隣家を延焼させるほどの損害賠償など普通の人はどうせ払えないとか、いろんな背景があったと言われています。
今の感覚では非常にふしぎな法律ですが、日本は法治国家。おかしいなと思っていてもその法律に従って生活しなければなりません。
ですから、賃貸住宅の入居者に限らず「不注意」の範囲内で火事を起こしてしまっても、大家さんや他の入居者、そのほか何かしらの損害を与えてしまった人に対しての賠償義務はありません。
隣人に家を燃やされてしまった人は、自分の火災保険を使って復旧するか、泣き寝入りをするしかないという訳です。
◆入居者の保険と失火責任法の関係
賃貸住宅の入居者さんは、契約時に火災保険に加入するのが一般的です。
その火災保険は本人の家財に対する火災保険(主契約)に、「借家人(しゃっかにん)賠償責任保険)」が特約として付帯されています。
あれ、賠償義務はなかったのでは・・・と感じるかもしれませんが、入居者さんは賃貸住宅の契約書上で「借りている部屋を損傷させたら、復旧させるか弁償しなければならない」という「原状回復義務」を負っています。
この場合の原状回復義務は、もちろん火災を原因とする場合でも免れません。
ですから借家人賠償責任保険は、民法ではなく「賃貸借契約」における義務を履行するための保険ということです。
保険金額(限度額)が、1~2千万円程度に設定されることが多いのは、仮に入居者が失火でアパートを丸ごと全焼させてしまったような場合でも、賃貸借契約書に基づく原状回復義務は「借りている部屋」だけに適用されるからです。
他の(借りていない)部屋や共用部については、弁償する義務はありません・・・って、やっぱり変な法律なんですけどね。
◆賠償は時価なので
ですから、入居者さんが全員火災保険や借家人賠償責任保険に加入していたとしても、大家さんの火災リスクはゼロにはならず、自身でもちゃんと火災保険に加入しておかなければいけません。
さらに、日本における損害賠償は「時価」をベースに算定されますが、その金額だと古い建物の場合は復旧させられないことも多く、その時は大家さんの火災保険からも保険金を支払うことになります。
なにかと難しい法律と保険ですが、知らないと損をすることも多いので、頑張って勉強するか、詳しい人をチームに入れておくべきかと思います。