なかなか興味深いニュースを読みました。

賃借しているアパートの中で、無許可で豚を解体したということでベトナム人4名が逮捕されたというものです。

◆セルフ解体が見つかった経緯

ぼくも知らなかったのですが、日本には戦後間もない頃に定められた「屠蓄場法（とちくじょうほう）」という法律があり、許可を得た食肉処理場以外の場所で牛や豚などを解体すると罰せられます。

法律制定の趣旨は、動物解体による感染や飲料水汚染、廃棄物などの被害を防ぐというものですが、ちょっと利権的な要素もあるみたいです（これはヤバそうなので詳細書きません）

どうしてこの人たちの屠殺行為がバレてしまったのかというと、逮捕された4人のうちの一人が少し前に畑から野菜を盗んだということで逮捕されており、その容疑で家宅捜索をした際に、解体された豚肉や解体器具などが発見されたとのことです。

その豚も、盗んで来た可能性が高いということで、違法な自給自足で生活していたようですね。生き抜こうとするタフさが凄い。

◆普通の家で動物を解体すると？

さて、この記事に興味を持ったのはもちろん「アパート内で」というとろこにあります。

屠蓄場法で禁止されているのは、牛、馬、豚、羊、山羊のみ。鶏やイノシシなどは自宅で解体しても違法ではありません。

しかし実際には、こんなことを貸している部屋でされたら大変です。

おびただしい血で部屋が汚れるのはもちろん、少しでも廃棄が遅れたら大変な悪臭騒ぎになります。

焼き肉屋さんやラーメン店などには、グリーストラップといって肉クズや脂などによって配水管が詰まらないような設備が備わっていますが、普通のキッチンなら一発でアウトです。

◆入居者ごとの「日常」と「損耗」

しかし、一般の賃貸借契約書には「室内で動物を解体しない」なんていう条文はありません。

異臭を発生させたり汚したりという禁止行為を拡大解釈することで、退去させる理由にはできるかもしれませんが、相手がごねればそれも難しくなります。法律に違反してる訳じゃないですからね。

しかも、鶏を自分で締めて解体して食べるような行為が習慣化しているような人の場合、配管を詰まらせたり汚したりというのも「日常生活での損耗だ」と言い切られてしまう可能性さえあります。

確かに、その人にとっての日常生活ですからね。

屠蓄場法が禁止しているセルフ解体は、牛、馬、豚、羊、山羊のみでした。鶏や猪はOK。

例えば鶏を自分で締めて食べるのが習慣化しているような人だと、屠殺によって部屋が臭くなったり汚れたりといったことも「日常損耗だ」と言われてしまうのでしょうか。

人によって「日常」は大きく違うから怖い。

— 投資家けーちゃん (@toushikakeichan) October 29, 2020

◆モラルに期待できない時代

そんなのわざわざ決めごととして書かなくても、普通の人は自宅で動物を解体するようなことはしません。モラルとか常識の問題です。

しかし解体作業に限らず、法律にも賃貸借契約にも違反していない場合、その行為を理由に退去をさせたり行為を辞めさせたりすることはできません。

だから今後は、日本とは違う生活習慣を持った人とか、著しくモラルに欠けてそうな人を入居させる（入れざるを得ない）ような場合に備えて、かなり細かく厳しい入居ルールを作る必要があるなと感じました。

今は入居者の権利意識が強いです。「（契約には書いてないけど）ダメって言ったらダメ」という論理は通用しないでしょう。

◆おまけ（サラリーマン時代の小話）

損害保険会社に勤務している時代に、小規模な運送会社に対して「就業規則や給与規定についてのコンサル」をすることで親密度を高め、自動車保険の契約奪取を狙うという営業スキームがありました。

こういった会社の運転手さんは職業柄もあって就業時のマナーが悪く、かといって法律に違反している訳でもないので会社で統制できないという悩みが、多くの運送会社社長にはあったのです。

当時はほとんどの会社で、こういう規定が未整備のままでしたからね。

そこで保険会社が提供していた「就業規則のひな形」のようなものは、自分のいる会社では考えられないような細かさとレベルの低さでした。

・上半身裸になって運転しない
・タバコをポイ捨てしない（「車内禁煙」など、とても言えない）
・通行人や他の車のドライバーを大声で威嚇しない

こんな低レベルの「禁止行為」が20以上も並べられているのです。

あり得ないバカバカしさですよね。しかし賃貸の現場でも、こういったことを考えなければならない時期に来たような気がします。

室内で豚の解体ニュースを見て、ちょっとサラリーマン時代のことを思い出しました。