「東京ルール」が地方を滅ぼす
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最近でこそ、割と都会で区分マンションを買っておりますが、今でも地方にある一棟もの物件からの家賃が、売上の大半を占めています。
地方物件は入居が決まりにくいとか、将来の価値下落のリスクなどを心配する人が多いですが、これらは自分の努力でかなりの部分をカバーできますので、運営力のある投資家さんであれば、さほど心配は要らないと思います。
◆地方物件の本当のリスクとは?
それよりも重大なデメリットと言えるのは「賃料単価の低さを原因とした、経費率の高さ」ではないでしょうか。
東京都区内の築浅物件と地方で古めの物件とでは、単位面積あたりの賃料に2倍以上の開きがあります。
同じ広さのワンルームでも、都区内なら8万円、地方だと3万円(しかも駐車場付き)くらいの差があります。
一方で、例えばエアコンが壊れて新規に買い換えたときの金額は東京も地方もさほど違いはありません。
相対的に、エアコン代の負担感が増えますよね。もちろんこれはエアコンだけじゃなく、支払っている経費のほとんどにこの現象は当てはまります。
そんなハンディキャップを抱えつつも、地方の中古物件を取得した投資家さんは、東京よりは高い利回りを武器に、あとは努力と根性でなんとか運営をしている訳です。
◆国交省「ガイドライン」と東京ルール
そこに新しい敵がやって来ました。
国土交通省が定めた原状回復についてのガイドライン(平成10年に制定)を徹底し、宅建業者に説明責任を負わす「東京都紛争防止条例」です。
俗に「東京ルール」として、既にご存じの方も多いかと思います。
この東京ルールは、あくまで東京の宅建業者向けのルールですし、国交省が定めたのはあくまで「ガイドライン」です。
しかし、近年は地方の管理会社さんでもこの東京ルールを徹底し、「良心的な不動産会社」としてのPRやリピート獲得につなげる動きが活発になってきたのです。
ぼくはこの東京ルールの行きすぎた徹底が、地方の大家さんを苦境に追い込み、地方をさらに衰退させるものだと考えています。
国土交通省のガイドラインは、今でも国交省のサイトから全文を読むことができますが、簡単にいうと
・退去時の原状回復において「通常損耗」に該当するものは貸主が負担。
・賃貸中に必要になった修繕も貸主が負担。
・これに該当しない「借主に不利な契約」は、同意が必要。
という3本柱で成り立っています。
そして、ガイドラインの遵守と契約時説明を宅建業者に義務づけたのが「東京ルール」だという訳です。
◆「通常」の範囲が広すぎない?
ガイドラインに何度も登場する「通常損耗」という言葉の定義ですが、これは「借主が通常の生活として部屋を使用したことによる損耗」とのことです。
この通常損耗と、経年で自然に劣化していった部分の回復は普段受け取っている家賃に含まれているというのがガイドラインの考え方です。
確かに、ホテルや貸し会議室などを使った後で、損耗分を請求されることはありません。
ただ、この「通常損耗」に該当する範囲がかなり広いんですよね。
・家具の設置による床やカーペットのへこみ
・日照によるクロスの変色
・テレビや冷蔵庫を置いたことによるクロスの黒ずみ
・ポスターを壁に貼ったときに生じた穴
・破損はしていない畳の表替え、網戸の張り替え
これらの項目は、入居者さんのマナーや生活の工夫によってかなりの部分が防げるものですが、一律に貸主の負担としています。
借主負担となるためには「ポスターを貼るつもりじゃないのに壁に穴を空けた」とか「醤油とかをこぼしてシミを付けた」というような、明らかな過失がないといけません。
東京の価値観で作られたガイドラインを、地方の管理会社さんが徹底しすぎると、これは結構大変なことになっていく可能性があります。
次回の記事で、そのあたりを詳しく書いていこうと思います。